M&A専門誌マール

2017年7月号 273号 : ポストM&A戦略

第103回 買収先経営者の成長志向と付き合い方の設計(上) 有料記事です

 竹田 年朗(マーサー ジャパン グローバルM&Aコンサルティング パートナー)

  株主から見た経営者とはどのようなものかというと、期待役割の内容、大きさ、複雑性などから「求める人材の要件」を定め、適材を探して任命し、あるいは新たに雇い入れる対象である。買収先経営者の場合でも、単に買収時にはそこまでする時間がないために現任者のリテンション策を講じることが多いだけであって、考え方は同じである。つまり、今後、より適した人材と交代させる可能性が常にある。
  一方、買収先経営者にしてみると、リテインされれば、通常は自分がこれまで経営してきた事業を継続して経営し、伸長することが期待されるため、よほど嫌でない限りは「当面=1年ないし2年程度」続投し、その間にその先のことを考えるのは、そう悪い話ではない。個人のキャリアの段階や志向性はさまざまで、買い手とうまくやれるかどうかも、実際にやってみないことにはわからないからである。
  このように、買収先経営者個人と会社の関係は、一旦は設定せざるを得ないが、その後は相互に見直しが入るものである。この中で、経営者の適材適所と適材経営者のリテンションがどのようにうまくデザインできるのか、経営者が持つ成長志向や成長願望にも触れながら、解説したい。

経営者市場と経営者の成長志向

  日本企業が行う海外買収の対象は、大きく2つのパターンに分けられる。まず、すでに企業の体を成している場合である。創業者色が消えて久しく、かなりの大企業となっている場合を含む。創業者がまだ実態的に、あるいは象徴的に企業を牽引している場合でも、組織によって事業を運営しており、創業者を助ける経営者が育成・内部登用され、あるいは外部から採用されている。本稿では、こちらのパターンについて述べる。
  もう一つは、企業というよりは創業者の個人商店が大きくなったものである。重要な部分に革新性や工夫がちりばめられ、高いレベルの事業運営や業績達成ができている場合もあるが、ほとんどの場合で事業規模はさほど大きくない。しっかりとした組織体制と経営の仕組みなしには、通常は規模が維持できないからである。こちらのパターンについては、次回連載で述べる。
  経営者市場が有効に機能する、つまり市場により需給が充足され、報酬等が適切に条件設定されるのは、前者の大企業中心の企業社会の方である。経営者を目指す人材は、内部昇格に必要に応じて転職を組み合わせ、キャリアの階段を上がっていく。具体的には、より大きな役割と責任・権限を獲得し、これに伴ってより高い認知と、より大きな報酬機会を追求する。
  経営者市場が機能している国、あるいは経営者市場の概念に基づいた経営幹部人材マネジメントを行う企業(成長途上国でもそのような企業は多い)では、大会社のシニアマネジメントは職責が大きく、それ相応に報酬も高く、その水準は日本の通念を上回る(本連載第81回「グローバル企業の人材マネジメント」(下)参照)。そして、それが優秀な人材を経営者という職業に惹き付け、本人はキャリア・アップ、つまり、同一企業内ではより高いポジションへの異動を、またはより大きな事業・企業への移動を目指す動機づけを得る。
  買収先経営者とて同じ経営者であり、原理的には成長機会というものに惹き付けられる。ただし、個人の置かれた状況について場合分けをきちんと行う必要がある。

経営者の志向性と経営者への期待

  経営者は上昇志向が強い、などと一言で言ったところで、通常は自分がうまくやれる可能性(「勝ち目」)を考えながら、その上昇志向なるものの具体的内容を、自分のプライドが満たされる地点と現実との間を行ったり来たりしながら適切に定めることになる。つまり生身の人間で、生活もあるから、あまりドン・キホーテのようなマネはしないのが普通である。そのため、今は目の前の機会を取るしかないが、より良い機会が出てきたら乗り換えるのに躊躇しない、という判断が(本人はそんなことは絶対に言わないが)頭をもたげるのである、他方で、本人がその乗り換えを考えるのをしばらく抑止しようというのが、買い手が付与するリテンションプランの狙いである。
  買い手の期待値は、本人が買収前から経営してきた事業を引き続き牽引し、一段と飛躍させることである。それは一体どんな内容の飛躍で、どのくらいの飛躍なのか、というのは、買収ストーリーやシナジーの想定、現状改善の機会、そして買収価格(支払ったプレミアム)で決まる。決まりさえすれば、経営者から見たやりがい・面白さや達成難度、そして期待報酬との見合いもはっきりしてくる。
  成長機会の点からも報酬・処遇の点からも、本人にとってまたとないチャンスに思える場合は、あまり問題がない。しかし、大変さや割に合わない感覚が先に立ち、本人が到底心からやりたいとは思えない場合も考えられるので、以下の①②③でもう少し説明する。

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