M&A専門誌マール

2017年12月号 278号 : 対談・座談会

[座談会] M&A関連法制と実務の最新動向[2017年版] 有料記事です

 秋山 健太(ラザードフレール マネージング・ディレクター)
 髙木 弘明(西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士)
 中村 慈美(中村慈美税理士事務所 税理士)
 武井 一浩(西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士)(司会)
 構成:丹羽 昇一(編集委員)

左から中村 慈美氏、武井 一浩氏、秋山 健太氏、髙木 弘明氏

<目次>

はじめに

武井 「M&Aに関連した法制や実務の動向について1年間を振り返るということで、2014年から始めた年末の特集座談会も今年で4年目を迎えました。本年(2017年)は、組織再編税制の権威であられる中村慈美税理士、M&A中心に会社法制に詳しく平成26年(2014年)の会社法改正の立案にもかかわられた髙木弘明弁護士に加えて、特に海外M&AのFA業務の実務家としてご活躍のラザードの秋山健太さんにご参画いただき、海外M&Aの最新動向についてもお話しいただこうと思っています。私は、司会の役割に加えて、ファシリテーターとしても発言させていただきますので、よろしくお願いします」

1.2017年の組織再編税制の改正の振り返り

(1) 現金対価や自己創設のれん等に関する改正の概要と実務への影響

武井 「本年は、組織再編税制にいくつかの重要な改正がありましたので、税制から議論していきたいと思います。まず、中村先生のほうから、概要のご説明をお願いします」

合併・株式交換における現金対価の場合の取り扱いの改正

中村 「まず合併・株式交換(合併等)における現金対価についてです。ご承知のように、改正前は、合併等の税制適格要件の1つに『金銭等不交付要件』というのがあって、合併の場合であれば、被合併法人の株主等に合併法人の株式以外の資産が交付されない、株式交換の場合であれば、株式交換完全子法人の株主に株式交換完全親法人の株式以外の資産が交付されないこととされていました。要するに、対価として1円でも現金を支払うと税制非適格になる、その結果、対象会社の資産譲渡とみなされ、法人段階で時価評価による課税が生じるという制度だったわけです。従前から、株式一辺倒ではなく現金も混ぜていいではないかという働きかけをしてきたわけですが、平成29年度改正で、やっと『金銭等不交付要件』が緩和されたわけです。具体的には、合併の場合は合併の直前において合併法人が被合併法人の発行済株式の総数の3分の2以上に相当する数の株式を有する場合における合併法人以外の株主等に交付される金銭その他の資産を除いて判定する。また、株式交換の場合も、株式交換の直前において株式交換完全親法人が株式交換完全子法人の発行済株式の総数の3分の2以上に相当する数の株式を有する場合における株式交換完全親法人以外の株主に交付される金銭その他の資産を除いて判定することとされました。

  さらに、スクイーズアウト手法として利用される①全部取得条項付種類株式に係る取得決議、②株式の併合、③株式売渡請求に係る承認が株式交換とあわせて『株式交換等』として組織再編税制の対象とされたことも重要です。この場合には、①株式交換等に反対する株主等に対するその買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産、②全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定の申立てに基づいて交付される金銭その他の資産、③株式売渡請求の取得の対価として交付される金銭その他の資産を除いて『金銭等不交付要件』を判定することとされました。

  このように、被合併法人、株式交換完全子法人の発行済株式の3分の2以上を保有していれば、金銭交付合併、金銭交付株式交換であっても適格合併、適格株式交換となることが可能となったことから、例えば、スクイーズアウト手法として株式交換を利用する場合、この改正により完全子法人の発行済株式の3分の2以上を保有していれば対価として金銭そのものを交付しても『金銭等不交付要件』に抵触することがなくなったため、今後はあえて1株未満の端数となる交換比率とする必要性はなく、金銭そのものを対価として交付することになると思われます。

  また、全部取得条項付種類株式に係る取得決議における端数の株式の交付及びその端数の株式の競売等により得られた代金の交付、株式の併合における端数となった株式の競売等により得られた代金の交付は、金銭等の交付には該当しないこと、さらに反対株主の買取請求、価格決定の申立、株式売渡請求における交付金銭等を除外して金銭等不交付要件を判定することとされたことにより、株式交換以外のスクイーズアウト手法で『金銭等不交付要件』に抵触するのは、全部取得条項付種類株式に係る取得決議において株式以外の資産を対価として交付する場合が考えられます」

「自己創設のれん」について

武井 「引き続き『自己創設のれん』についてお願いします」

中村 「改正前においては、非適格株式交換等が行われた場合の一定の完全子法人、連結納税開始の場合又は連結納税加入の場合の一定の連結子法人については、その保有する資産について時価評価課税が行われることとされていました。この時価評価課税の対象となる資産(時価評価資産)は、固定資産、棚卸資産である土地(土地の上に存する権利を含む。)、有価証券、金銭債権及び繰延資産のうち時価評価対象外資産(含み損益の金額が資本金等の額の2分の1に相当する金額又は1000万円のいずれか少ない金額に満たない場合のその資産等)以外のものとされていました。

中村氏  したがって、固定資産であれば時価評価対象外資産に該当しない限り、時価評価課税の対象となり、土地や建物といった有形固定資産のみならず、営業権のような無形固定資産も対象とされていました。そのため、完全子法人・連結子法人が超過収益力的な価値を保有していると考えられる場合には、会計上はその価値を営業権として資産計上していない場合であっても、税務上は営業権として資産計上(時価評価により評価益を計上)する必要があるという見解が有力視されていました。これが、いわゆる自己創設営業権(自己創設のれん)の計上の問題でした。

  平成29年度改正では、時価評価対象外資産の範囲の見直しがされ、時価評価対象外資産に帳簿価額が1000万円未満の資産が追加されました。

  したがって、帳簿価額が少額の資産が時価評価対象外資産となったことのみならず、自己創設営業権の計上の問題が解消されたことになります。なぜならば、自己創設営業権は、資産計上されていない簿外の資産であり、その帳簿価額は0円(1000万円未満)であるため、時価評価対象外資産となるからです。

  自己創設営業権の計上の問題は、特に株式買収により完全子法人とした法人がいる場合の連結納税開始時又は連結納税加入時の時価評価課税において論じられてきました。これは評価益に対する税負担の問題のみならず、そもそも自己創設営業権を計上すべきか、計上するとしてもその評価方法はどうすべきか等、その取り扱いに不透明な部分があり連結納税の導入等の際の課税リスクとなる場合もありましたが、今後はそのような課税リスクはなくなったものと思われます。

  なお、自己創設の営業権の計上問題は解消されたのですが、別途、営業権の償却について、技術的な改正がありましたので補足しますと、営業権の償却期間は5年(60カ月)なのですが、従前は、営業権を取得した当該事業年度に5分の1の償却が認められていました。しかし、改正後は、期中取得の場合は月割り按分で、取得してから年度末までの月数分しか償却できなくなりました。他の減価償却資産の場合は、月割り償却をしますので、それと合わせたということかと思います」

武井 「自己創設のれんの問題がなくなった結果として、税制非適格の株式交換の場合でも、時価評価による課税のインパクトが少なくなったといえますね」

中村 「その通りです。非適格も使いやすくなり、応用範囲が広がりました」

スクイーズアウトがやりやすく

武井 「スクイーズアウトの税制上の取り扱いも整理されました」

中村 「スクイーズアウト、いわゆる少数株主排除の手法として、現金合併と、特に現金株式交換が使えるようになったのは大きいと思います。3分の2以上の株を持っていれば税制適格再編でできるということですから」

武井 「今回の改正全般にかかわるのですが、『何を支配しているか』という考え方に基本的な見直しがなされように思います。つまり、3分の2の株を既に保有している場合に、少数株主に現金を渡しても、資産に対する支配は失われていない。既に支配していて、その支配関係は変わらないのだから、現金を渡しても、法人レベルの課税はしない。そういう整理かと思います」

中村 「そういうことですね。ただ、もちろん現金を受け取った少数株主は課税を受けます」

武井氏 武井 「確かに株主課税はあります。あと念のための確認ですが、この3分の2は、合併と株式交換の話で、全部取得条項付種類株や株式併合を使った場合については規定されていません。

  全部取得条項付種類株、株式併合、特別支配株主の売渡請求の3つの選択肢が『株式交換等』という形で、組織再編税制の中には組み込まれたわけですが、どういう考え方の整理をしているのでしょうか」

中村 「ご承知の通り、従来は税制の『金銭等不交付要件』があるため現金株式交換によるスクイーズアウトが事実上できないため、その代替手法として、全部取得条項付種類株式や株式併合が使われていました。そこに、平成26年の会社法の改正で、特別支配株主の株式売渡請求制度ができました。ところが、出来上がりはすべて株式交換と一緒なわけです。経済実態が同じであれば、税の取り扱いも同じにしようという考え方で、平成29年度改正でこの4つを合わせて『株式交換等』と定義したということです」

武井 「あと、どの手法が使いやすいかは、ケースバイケースですね」

中村 「単純には、売渡請求は、会社法上9割取得しないとできませんから、一番ハードルが高いでしょうね。そういう意味では、第一段階のTOBで、どれだけ株が取得できるかによって、変わってくる。会社法の手続きとの関係もあるでしょうから、そのあたりは、弁護士の先生方の領域かと思います」

武井 「少なくとも税制的には、大きな差はなくなったという理解でよいでしょうか」

中村 「そういう意味では、1つだけ留意点があります。全部取得条項付種類株式も株式併合も、今回の改正は、1株未満になる端数株主に対して交付される現金については組織再編税制の対象として適格とするということなので、端数ではない株主に現金を交付した場合は別です。ちょっと分かりづらいですが」

武井 「ご指摘の通りです。あと、例えば、株式併合はスクイーズアウト目的以外でも利用されていますから、そういうものは射程外ということですね。

  あと株式併合等では、支配株主以外の株主の一部、例えば前オーナーや経営陣の一部を残してスクイーズアウトするような2人残しのケースがあるのですが、これは射程外ですね」

中村 「それは、射程外だと思います。支配株主とその他の残る株主に資本関係があれば話は別ですが、全く他人の場合、例えば創業者を残したいといった場合は駄目でしょうね」

武井 「それから、この3つのスクイーズアウトの手法が、組織再編税制に組み込まれるので、もちろん適格要件を満たしていればという前提ですが、連結納税選択のときに繰越欠損金の承継が可能になったと考えてよいのでしょうか」

中村 「そうですね。今までは、組織再編税制の範囲外ですから、繰越欠損金の継承とは無縁でしたが、改正後は、スクイーズアウトして100%子会社化した会社の繰越欠損金は、税制適格要件を満たしていれば、持ち込めるということになります。当該会社の所得の範囲内でしか使えないという制約はありますが、今までは切り捨てられて来た繰越欠損金が使えるわけですから、1歩前進と言えるでしょう」

スクイーズアウト法制改正における法的留意点

武井 「では髙木先生、補足コメントをお願いします」

髙木氏髙木 「すでに議論されている通り、現金対価のスクイーズアウトの手法については、従前は、その税制上の取り扱いの差異を理由に、完全子法人となる法人の資産の時価評価課税がされない、株式併合や全部取得条項付種類株式の取得を用いて、端数処理によりスクイーズアウトをするという手法がとられてきました。しかし、今回の改正によって、完全子会社化の取引に関する課税上の取り扱いが統一化されたため、今後は、端数処理を必要とせず、会社法上の手続も比較的簡便な現金株式交換や現金合併が利用される事例が増えていくと予想されます。

  また、例えば少数株主の人数が少なく、株式譲渡による完全子会社化が可能な場面でも、たとえば現金株式交換を選択すれば、各株主に同一の条件の下で完全子会社化をすることができる上、税務上も適格株式交換の要件を満たせば繰越欠損金も利用できるというメリットも得ることができる可能性があります。このような効果を考慮して、現金株式交換を選択する事例が出てくるかもしれません。

  なお、全部取得条項付種類株式の取得については、会社法の平成26年改正後、端数処理に関していわゆる『1株未満問題』(全部取得条項付種類株式の取得に反対する者に対価が割り当てられない結果、反対者が多い場合に少数株主に割り当てる株式の端数が合計しても1株に満たず、端数処理ができなくなる可能性が生じるという問題)の存在が指摘されており、平成26年改正後は株式売渡請求や株式併合が用いられることが一般化していますが、今後、これらの手法に加えて現金株式交換も選択肢としての重要性が増すと考えられます」

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グローバル化 , 法制度 , 会計税務 , M&Aプレイヤー , 丹羽昇一

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