M&A専門誌マール

2017年8月号 274号 : M&A戦略と会計・税務・財務

第122回 海外企業買収後にガバナンスが効かない状態に陥らないために 有料記事です

 橋本 直武(PwCアドバイザリー合同会社 シニアマネージャー)

1. はじめに

  多くの日本企業にとって、海外企業の買収は成長を実現するための選択肢の一つとして当然なものとなって久しい。一方、買収先にしっかりとガバナンスを効かせられなければ、企業の屋台骨を揺るがしかねないリスクとなることは、昨今多くの案件がメディアを騒がせている通りである。せっかく苦労して買収に成功しても、数年後に多額の減損損失を計上しては意味がない。

  海外企業買収においてガバナンス不備のために損失計上や大きなトラブルにつながった案件に対しては、「やはり内部統制をしっかりやらねば」「J-SOXの導入をより拡大せねば」といった反応となりがちであり、確かに内部統制やJ-SOXによって防げたと思われる事象もある。しかし実際の現場を見てみると、形式的な内部統制の要件はしっかり遵守されていることが多い。必要な統制事項・書類等はしっかり揃っており、実際、監査もクリアしている。それなのになぜ、「ガバナンスが効かない」ということになるのか。

  本稿では、こうした「内部統制的には問題ないはずだが、ガバナンスが効かない(言うことを聞かせられない)」といった状態に陥らないためのポイントを整理したい。

2. 失敗のモデルケース

「内部統制的には問題ないはずだが、ガバナンスが効かない(言うことを聞かせられない)」状況に陥る典型的な流れとして、以下のようなモデルケースを挙げる。貴社ではこうした流れに乗ってしまっている案件はないだろうか。

買収前

  海外のターゲット企業の高い技術力に惚れ込んで買収を決めた。ターゲット企業の事業分野は我々の得意分野ではなく、その周辺に位置しており、我々には土地勘が薄い分野である。今回の買収でそのノウハウも獲得したい。詳細は買収前であるため詰め切れないが、ターゲット企業のノウハウを日本でも展開することで大きなシナジー効果も期待できそうだ。

  ノウハウを持っているキーパーソンは現経営陣であるので、彼らは全員留任とする方針である。リテンションのためにボーナスも十分に用意した。

買収直後

  キーパーソンの現地経営陣が事業のカギであるので、とにかく彼らが気持ちよく事業を運営し続けてくれることが重要との方針でPMIを推進した。

  日本からは経営企画担当役員を送り込んだが、現業には直接関与せず、シナジー促進をミッションとする形で、現地経営陣との役割分担を図った。

  現地経営陣が求める日本からの技術の供与、顧客の紹介等はできる限り協力する一方、現地から日本への技術支援等の日本側へのシナジー対応は当面後回しとする。

  日本側からの要望事項は極力少なくし、日本本社側で必要な稟議等のペーパーワークは日本からの出向者が担当する形として、現地チームに負担をかけないように工夫した。

買収後の運営

  業績が悪化する傾向が見えたが、経営会議で少し追及すると現地経営陣は「問題ない」との説明を繰り返す。さらに深く追及すると現地経営陣を怒らせそうなので、深い追及は行わず。

  しばらくすると業績が明らかに悪化してきたため、本格的なテコ入れをしたい。しかし、本格的なテコ入れを提案した場合、現地経営陣の猛反発は必至である。現地経営陣を交代させようにも他に事業・技術を分かっている人材がいないため、手が打てない。仕方なく現地経営陣が策定した立て直し策を実行することとしたが、そのために追加出資に応じるはめになった。

  それでも業績は回復せず、結果、多額の減損を計上する結果となってしまった。

  各担当者は真面目に仕事に取り組んだはずであるが、なぜこうした事態に陥ってしまったのだろうか。次項以降で、各段階における注意点を整理する。

3. 買収前における注意点

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