M&A専門誌マール

2017年10月号 276号 : M&Aストーリー

新興市場M&Aの現実と成功戦略 第30回 『適材適所の人材登用の考え方』 有料記事です

 神山 友佑(デロイト トーマツ コンサルティング パートナー)

【登場人物】(前回までのあらすじ)

  三芝電器産業の朝倉俊造はインドへの赴任を命じられた。1年半ほど前に買収したインドの照明・配線器具メーカー(Reddy Electricals)への出向である。
  インド固有の課題に悩まされ、そして創業家側の旧経営陣との軋轢を生みながらも、朝倉の先輩である日本人出向者達は、生産革新や流通改革に矢継ぎ早に取り組んでいった。
  朝倉の赴任も数カ月を過ぎた頃、インド全国への視察を終えた営業管理担当の小里陽一が本社に戻ってきた。そして小里のサポートを命じられた朝倉に対し、「代理店制度の廃止に加えて、抜本的な営業改革を断行したい」と言い放ち、朝倉にボード・ミーティング向けの企画書を作成させた。
  苦労しながらも何とか企画書の承認を勝ち得た朝倉は、すぐに改革を走らせようとする。しかし三芝電器には直営営業所の営業ノウハウが存在しない。本社からのサポートを得られなかった朝倉は、新入社員当時に実習で派遣された故郷の諫早電器店に電話した。そして10年以上前に研修で世話になった店主から、県内で優秀系列店として有名だった佐世保電器店の岩崎を紹介された。岩崎は腹心の古賀を連れてムンバイの地に降り立った。そしてレッディ社の直営店舗に対する、岩崎と古賀からの非公式な教育が開始された。
  そんなある日、本社に戻った朝倉は営業担当取締役である小里に声をかけられ、目下の営業改革について議論が始まった。議論は狩井宅での恒例の合宿議論に持ち越され、最終的に本社から投資を呼び込む手段としてコモンウェルス・ゲームズが活用されることになった。全員が一丸となり本社や関係会社との折衝に取り組んでいる中で、今度は製造管理担当の伊達から狩井に納入部品に関する問題提起がなされた。
  日本では考えられないようなトラブルに日々見舞われていたが、狩井はじめ日本人駐在員は徐々にインドでのビジネスの手ごたえをつかみつつあった。そしていよいよ、一度頓挫した取り組みを再始動させようとしていた。



新組織図案、幹部人材配置案

  まだ井上の私案段階であるとはいえ、レッディ社の新組織図案と幹部人材配置案に、出向者一同は興味津々であった。外部の血を大胆に取り込んで新たなレッディ社を形作っていくという意味でも、新組織の作り方や新執行体制における登用の在り方は、極めて重要だからだ。
  また部門によっても人材登用の考え方は大きく異なる。できる限り生え抜きのローカル人員を登用し、既存マーケットへの入り込み強化を図る営業本部。開発部門も含めた事業部全体を率いるポジションには、外部人材を登用せざるを得ない製造本部。ただし両本部を率いる小里にしても伊達にしても、完全に得心が行っているわけではなく、まだ迷っていた。
  その2人の迷いを表すかのように、晩飯の終わった合宿所はしばし沈黙に包まれた。井上も自分の作った新組織図に目を落としたまま口を閉ざした。
  しばらくして社長の狩井が、明るい声で井上に話しかけた。
「井上さんの新組織案、大変よく練られていると思います。シングのボードメンバーへの登用含め、私には大きな違和感はありません。新組織の骨格は、きっとそうなるのでしょうね」
  井上は驚いて顔を上げた。新組織と人材配置案というのはどの会社でも経営の重要イシューであり、まさかこんなにもすんなりOKの意思を示されるとは思っていなかったのだ。
  狩井は続けた。
「ボードメンバーの下に、3本部制。これもシンプルでわかりやすい。コーポレート本部はシングが管掌し、製造本部は伊達さん、営業本部は小里さんがそれぞれの部門特性に応じたマネジメントを行う。そういう意味では、両本部の中身をどうしていくおつもりなのかは、お2人にぜひ話を聞いてみたいな」
  小里も伊達も顔を上げ狩井に視線を寄せた。おそらく2人ともに悩んでいることを狩井は感じ、それであればむしろ口に出して話をしてみてはとアドバイスをくれたのであろう。
  2人は一瞬目を合わすと、小里が先に口を開いた。

営業本部の人材登用の在り方

「先ほど少し話題に出た通り、営業系は私が担当取締役として全体管掌しますが、本部長はローカルの生え抜きを充てる予定です。彼は買収前から長い間、ムンバイを中心に代理店営業と管理をやってきた人間です。そして直接販売体制に移行しつつある現在においても、顧客と従業員の双方から人望が厚く、うまくビジネスを束ねてくれています」
  小里は一息入れて続けた。

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