M&A専門誌マール

2017年7月号 273号 : M&Aストーリー

新興市場M&Aの現実と成功戦略 第27回 『想像力の限界を超える日々』 有料記事です

 神山 友佑(デロイト トーマツ コンサルティング パートナー)

【登場人物】(前回までのあらすじ)

  三芝電器産業の朝倉俊造はインドへの赴任を命じられた。1年半ほど前に買収したインドの照明・配線器具メーカー(Reddy Electricals)への出向である。
  インド固有の課題に悩まされ、そして創業家側の旧経営陣との軋轢を生みながらも、朝倉の先輩である日本人出向者達は、生産革新や流通改革に矢継ぎ早に取り組んでいった。
  朝倉の赴任も数ヶ月を過ぎた頃、インド全国への視察を終えた営業管理担当の小里陽一が本社に戻ってきた。そして小里のサポートを命じられた朝倉に対し、「代理店制度の廃止に加えて、抜本的な営業改革を断行したい」と言い放ち、朝倉にボード・ミーティング向けの企画書を作成させた。
  苦労しながらも何とか企画書の承認を勝ち得た朝倉は、すぐに改革を走らせようとする。しかし三芝電器には直営営業所の営業ノウハウが存在しない。本社からのサポートを得られなかった朝倉は、新入社員当時に実習で派遣された故郷の諫早電器店に電話した。そして10年以上前に研修で世話になった店主から、県内で優秀系列店として有名だった佐世保電器店の岩崎を紹介された。岩崎は腹心の古賀を連れてムンバイの地に降り立った。そしてレッディ社の直営店舗に対する、岩崎と古賀からの非公式な教育が開始された。
  そんなある日、本社に戻った朝倉は営業担当取締役である小里に声をかけられ、目下の営業改革について議論が始まった。議論は狩井宅での恒例の合宿議論に持ち越され、最終的に本社から投資を呼び込む手段としてコモンウェルス・ゲームズが活用されることになった。全員が一丸となり本社や関係会社との折衝に取り組んでいる中で、今度は製造管理担当の伊達から狩井に納入部品に関する問題提起がなされた。



内製化を支えた、従業員の心

  創業家系サプライヤーの品質問題を抜本的に改善すべく、調達物品の内製化計画がボード・ミーティングで決裁された。一気に内製化を推し進めることは、生産キャパシティ的にもサプライヤーとのコンフリクトの観点からも現実的ではなかったため、2年をかけて段階的に行われるプランとなった。
  一部のサプライヤーは猛反発し、発注停止を無視して部品納入や請求書送付を継続してきたケースもあったが、経営管理担当の井上が現地人の弁護士を従え早々に毅然と対応したため、大きな混乱に至ることはなかった。サプライヤーのオーナー社長がレッディ社本社に乗り込み、大声で「不当な取引停止を裁判所に訴える」とまくし立てるというような脅迫めいたことは多発したが、それらはインドでは「日常的なこと」であり、いまさら大きな混乱と騒ぎ立てる類のものではないと皆が理解していた。
  内製化は開始から半年後には完全に軌道に乗り、当初の計画よりも速いスピードで取り組みが進められた。内製化による生産ラインのひっ迫が心配されたが、既存工程の生産性向上がそれを上回ったのだ。
  またサプライヤーからの人材流入も、内製化加速に弾みをつけた。伊達による工場改革は目に見える形で進んでいたため、その評判を聞いた創業家系サプライヤーで働いていたワーカーがレッディ社に移ってきたのだ。それまでは常に薄暗い工場で、床にしゃがんで働いていたワーカーたちにとって、蛍光灯が煌々と灯り、広い作業卓の上で作業が行われているレッディ社工場は「見たことがない世界」だった。一部工場には空調設備も導入されはじめ、また従業員数に見合った食堂施設の整備やトイレの増設も進められた。レッディ社の職場環境の改善は、日本人駐在が感じている以上に現地ワーカーの心を掴んでいた。

想像を大きく超えた波及効果

  また内製化は、予期せぬ様々な波及効果をもたらした。その一つは・・・

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