M&A専門誌マール

2018年2月特大号 280号 : M&A戦略と法務

海外企業をM&Aする際にデューデリジェンスの対象とする子会社・孫会社の範囲 有料記事です

 中川 秀宣(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)

第1. 初めに

  M&Aを企画する際、買収側が対象企業・対象企業グループをデュー・デリジェンス(以下「DD」という)することは既に慣行となっている。実務に携わる中でDDプロセスの初期に直面する質問として、DDの範囲の確定という問題がある。M&Aも企業の経済活動の一環であり、買収企業の担当者として費用対効果から必要最小限度の費用を望まれることも多い。グローバル企業を対象としたM&Aの場合、特に連結子会社等の存在する国が多岐に亘り、その連結子会社等を精査するには各国で専門家を起用する必要があることから、国が多ければ必然的に費用は嵩む。そのため、「効率的なDD」等言い方は様々であるがDD対象を絞れないかという要請を避けては通れない。本稿は、DD対象を絞り込む際の判断の一助を提供することを目的とする。

第2. DDの意義と問題意識

1.DDの意義


  DDの意義については、経営判断への情報提供の手段であり、株主に対するアカウンタビリティーの一環であると言われている。具体的には、買収対象の実態調査と価値算定、許認可等クリアすべき問題点の把握、買収ストラクチャーの選択、契約で遮断すべきリスク項目の洗い出しと契約への折り込み等の対応策の検討、M&A後の統合準備等諸々の小目的に分かれる。そこには当然のことながらオフバランス取引や偶発債務の有無の把握が含まれるが、取引の規模によりDDの費用対効果を考える買収者も多く、精査した旨のアリバイ作り程度のDDでも目的は達成できると判断してDDの規模を制限することを希望される買収者も存在するのが実情である。もちろん同業種であったり取引先であったりと対象会社の現状について事前に把握している場合も多く、また対象会社の事業規模が小さくリスクについても推測が妥当する場合もある。しかし、対象企業の事業が国内完結ではなく、グローバル企業を買収対象とする際には、税務対策や現地法制対策から、対象企業グループに属する企業が会計上は連結子会社であっても議決権ベースで過半数を支配されている孫会社ではないといった場合も散見される。更に、残念ながら会計監査に対する信頼性も国により差異があることは否めない。会計に信用がない国では企業統治の効力も低いことが多い。

2.DDのミス?は起きる

  LIXILは、2014年1月に、株式会社日本政策投資銀行(以降「DBJ」という)との共同出資会社を通じて、GROHE Group S.a r.l.(グローエグループ)(本社:ルクセンブルク、以下「GROHE社」という)の発行済株式の87.5%を取得し、GROHE社及びGROHE社のフランクフルト市場の上場子会社であるJoyou AG(以下「Joyou社」という)を関連会社にした。Jouyou社は上場のための持株会社であり、香港の持株会社を介して、中国泉州中宇衛浴科技実業とその子会社を有している。その後、2014年12月に、残りのGROHE社の発行済株式を、Cai GmbH (ツァイ)(本社:ドイツ、以下「Cai社」という)より取得することを合意し、翌2015年4月頭に取得した。これに伴い、DBJとの株主間契約を変更し、LIXILは、GROHE社の56.25%株式を保有することになり、GROHE社及びJoyou社は、LIXILの子会社となり、親会社であるLIXILグループの連結子会社になった。なお、12.5%の取得に要した取得価額は、205百万ユーロ(1ユーロ=130円で計算し、約266.5億円)であった。しかし、その直後の2015年4月下旬に、Joyou社の監査役会(supervisory board)は、Joyou社の財政状態について特別監査を行うことを決め、その結果、翌月に、Joyou社の子会社において、売上、負債及び利用可能な現金の額において粉飾が発覚し、Joyou社のドイツでの破産手続きが開始された。これにより、LIXILは株式の取得投資額を失うだけでなく、買収時にJoyou社の負債についてLIXILが保証を提供することで邦銀による借換えを行っていたことからLIXILはその保証履行を求められた。結果、債権分については一部弁済も受けているが、約660億円の損失を計上することとなった。実際、一度グループ傘下に入れた対象企業を粉飾が発見されたので倒産させることにするということは、買収した親会社の関連でその対象企業と関わりを持ち始めた当該親会社の取引先に対する信用問題となりかねない。粉飾を発見できずに買収した場合、投資金額以上の被害額となることもある。

  なぜDDにおいてJoyou社創業者による従前からの粉飾決算を見抜けなかったのかについては

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