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M&A専門誌マール

2017年04月05日(水)

「M&A基礎講座」 ~PEファンドの役割と企業価値向上の実際~

【第5回】PEファンドが支援する次なる資本政策とPEファンドの活動がもたらす社会的・経済的意義

 大塚 博行(カーライル・ジャパン・エルエルシー マネージングディレクター)
 斎藤 玄太(カーライル・ジャパン・エルエルシー ディレクター)

 これまでの4回にわたる連載で、主にPEファンドが投資先の企業に対してどのような付加価値を提供するか、どのような企業にとってPEファンドを活用する意義があるか、実際にPEファンドは投資期間中にどのように企業価値向上に貢献するか、というテーマについて述べてきた。最終回の今回は、PEファンドが期待された役割を達成し、投資先企業が永続的成長のために、次なる資本政策を実現する局面について述べると共に、PEファンドの活動がもたらす社会的、経済的な意義について考察したいと思う。

次なる資本政策の選択肢とは

 PEファンドは複数の投資家から集めた資金を用いて企業投資を行い、投資先への付加価値の提供を行う。投資先の企業価値が成長し、徐々にその付加価値提供の役目が終われば、投資先は次なる資本政策に移行することになる。その時にPEファンドは初めてリターンとしての投資回収を行うことになる。その投資の回収はMBO実行時に取得した株式の譲渡という形で行われることとなるが、もちろんPEファンドは投資先企業の次なる資本政策の実現をも支援する。やるべきことをやって強固な事業基盤を確立した投資先企業が、永続的な成長に資する資本政策を実行すれば、当然株式市場や株式譲渡先の事業会社に高く評価されることとなり、その結果としてPEファンドもキャピタル・ゲインを得ることになる。ここがよくPEファンドが誤解を受けるところであるが、PEファンドの営みとして株式譲渡によるキャピタルゲインが主たる目的であっても、①投資先への付加価値提供として行うべき事を行い、会社が成長し、その企業価値も増加することによりキャピタルゲインが生じる、という発想と、②キャピタルゲインを作るために何を行うかを考え、投資先を左右する、とでは実質的にかなり意味が違う。後者の場合は、投資先企業が持つ資産を切り売して、R&D費を抑制し将来への投資を怠れば、一時的にキャッシュ創出力やPL上の収益は増加して企業価値は上がったように見える可能性はあるが、本質的な意味で会社の永続性には寄与していない。著者らの属するPEファンドにおいては、「我々の真の評価は投資先企業が次なる資本政策に移行して3-4年後にその企業がその業界で躍進出来ているかで決まる」という文化を持っている。

 次なる資本政策は、投資先企業の永続的成長のためにどの方法が適切かという観点から選択されるべきであると考える。一般的な考え方としては、資本の独立性を強みとしつつ永続的な成長を実現できるのであればIPO(Initial Public Offering(新規上場))という選択肢は合理的であるし、今後の永続性のためには、自助的には出来ない機能の強化を必要とする場合には、その後の資本パートナーとして、その機能を補完出来る事業会社への株式譲渡が合理的な選択肢となろう。次なる資本政策をどのように実現するかは、投資先企業の将来に対して大きな影響を及ぼすことから、筆者らが属するPEファンドは、投資に至る前の協議段階から、経営陣と十分に時間をかけて議論を行い、どのような資本政策を目指すかについて合意形成を行うことを重要視している。

 次なる資本政策の選択肢としては、主に2種類ある。1つ目は、投資先企業のIPO、すなわち株式公開である。この場合には、PEファンドは、IPOに参加する機関投資家及び個人投資家に対して保有する株式を譲渡することとなる。IPOを行う場合においても、ケースによっては投資先企業の今後の成長支援が期待できる事業会社に対してIPO直前に持分を譲渡する、あるいは事業会社にIPOに参加してもらうこと(いわゆる親引け)もある。IPOについては、資本市場へのアクセスを可能とすることから、継続的に投資資金を必要とする企業については有力な資本政策となることが多い。また、上場企業というステータスを獲得することにより、信用力が強化され、優秀な役職員の採用が容易になる等のメリットもあると言われる。投資先企業の経営陣が、特定の企業に多くの持分を保有されることなく、将来的にも資本的な独立性を維持することが永続的な成長に寄与する場合には、IPOというオプションは魅力的なものであろう。

 2つ目の選択肢としては、次なる成長を支える戦略的なパートナーとして事業会社に対する持分譲渡がある。この事業会社に対する持分譲渡の意義としては、投資先が次なるステージへの成長を目指すに際して、事業会社が保有するPEファンドとは異なる経営リソース、例えば、更なるR&D力、顧客基盤網、効率的なサプライチェーン網、巨大な調達ボリュームを背景とした調達コスト競争力等の規模の経済の獲得などを活用できるということがある。投資先企業が永続的な成長を実現するに際しての課題に対して直接的に解決するためのソリューションが提供できる事業会社であれば、パートナーシップを組む意義は大きいと言えよう。PEファンドとの取組みを通じて事業基盤の強化、事業規模の拡大、非連続的な成長を実現することにより、PEファンドとの取組み以前には呑み込まれるようなM&Aしか考えられなかった事業会社との間で、経営の自主性・独立性を維持する形で、投資先企業が望むWin-Winのパートナーシップを構築できたケースも多い。

次なる資本政策に向けたPEファンドの貢献

 目指すべき資本政策の実現においても、PEファンドの付加価値が存在する。例えば、IPOは、ゴールではなく新たなスタートである。IPOまでの業績が顕著であっても、その先の中長期的な成長が見えなければ、資本市場では評価されない。したがって、PEファンドの付加価値として、投資実行時からIPOまでの期間における成長支援するだけではなく、IPO後も継続的に成長するために必要な事業基盤の構築までを支援する。また、PEファンドは金融・資本市場に精通した専門家として、資本市場に評価されるためのエクイティ・ストーリー策定とその実績作りや、必要な社内体制構築を支援することが可能であるし、株式公開価格の決定に至るまでの価値算定や、いわゆるキャピタルストラクチャーとしての国内投資家/海外投資家比率、機関投資家/個人投資家比率の決定プロセス、それらに関する主幹事証券会社との交渉をリードすることができる。また、事業会社への持分譲渡であれば、PEファンドが保有する金融機関・事業会社・業界専門家等との広範なネットワークを通じて最適な譲渡先候補へのアクセスが可能となるケースが多い。例えば、PEファンドが投資を行ったという事実が公表されただけで、当該投資先とのパートナーシップに興味を持つ国内外の多くの事業会社からPEファンドに声がかかることはよくある話である。M&Aの豊富な経験を持った客観的な第三者としてPEファンドが関与することで、投資先企業にとって望ましいパートナーシップの条件を実現できるケースも経験上多いと言えよう。

 PEファンドが…

 

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カーライル・グループ

■筆者略歴
大塚博行(おおつか・ひろゆき)
早稲田大学商学部卒業/英国オックスフォード大学ヨーロッパ研究学修了。
1992年住友銀行(現三井住友銀行)に入行し9年間勤務。うち4年は住友銀行と大和SBCM(出向)にてM&Aアドバイザリー業務に従事。その間、投資銀行ラザードとM&Aにおける業務提携の実行/推進役を務め複数の協働案件に関与。2001年にカーライル・ジャパン・エルエルシーに移籍。日本のバイアウトチームにて産業界を担当。02年にラザードに移籍、ニューヨークと東京で勤務。複数のクロスボーダー/国内M&A案件に関与、約25件の成約案件。06年よりカーライル・ジャパン・エルエルシーに復帰し、現在はマネージング ディレクターとして、ジェネラル・インダストリー業界の責任者として従事。投資先の株式会社ツバキ・ナカシマ、シーバイエス株式会社(旧ディバーシー株式会社)、ウォルブロー株式会社、及びセンクシア株式会社(旧日立機材株式会社)の取締役を務め、また株式会社ディー・エヌ・エーの取締役に2015年6月より就任。過去にはチムニー株式会社(現在は東証一部上場)の取締役に従事。

 

 

斎藤玄太(さいとう・げんた)
東京大学法学部卒/米ニューヨーク大学にてLL.M.(法学修士号)取得/仏インシアード(INSEAD)にてMBA取得。弁護士・ニューヨーク州弁護士。
西村あさひ法律事務所(入所当時西村総合法律事務所)にて5年勤務。法的スキームの立案から最終契約書の作成に至るまで、大手金融機関や事業会社のM&A案件を手掛けるほか、コーポレートガバナンス、当局対応などの企業法務や巨額税務訴訟にも従事。2006年カーライル・ジャパン・エルエルシーに入社。現在ディレクターとしてヘルスケア業界、コンシューマー業界、テクノロジー業界の投資に注力。投資先の株式会社おやつカンパニー及び株式会社マネースクウェアHDの取締役を務め、過去にはAvanStrate株式会社の監査役及び株式会社ソラスト(現在は東証一部上場)の取締役に従事。
 

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