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M&A専門誌マール

2017年03月22日(水)

「M&A基礎講座」 ~PEファンドの役割と企業価値向上の実際~

【第4回】 筋肉質の会社へ ~投資後2年目以降の攻めの経営へ~

 川原 浩(カーライル・ジャパン・エルエルシー マネージング ディレクター)
 小倉 淳平(カーライル・ジャパン・エルエルシー ディレクター)

 「結果にコミットする」。ぜい肉と暗く沈んだ表情を持つ人物が、リズミカルな音楽と共に筋肉質なカラダに変わって登場するCMがある。人生まで一気に明るくなったような表情だ。この肉体を実現するために、専属トレーナーによるマンツーマンのトレーニングや徹底した栄養管理が短期間に集中的に行われるという。素晴らしいことだ。しかし、多くの人が気付いているように、真価が問われるのはその先だ。鍛えたカラダを維持するために、毎日緊張感のある生活を続けたくはない。生活習慣として、生活の仕組みとして定着させて、自分でもさほど意識することなしにこの筋肉質のカラダを長期間安定的に維持することができたら…。

 前回は、PEファンドの投資直後の3~6か月の改革(いわゆる100日プラン)について述べたが、今回は、その後の攻めの経営に転じる戦略について紹介したいと思う。「100日プラン」が経営における「短期集中型の肉体改造トレーニング」だとすると、これから論じるのは、PEファンドとの経営改革を仕組みとして定着させていき、長期的安定的に「攻めの経営」に持っていく段階である。

はじめに ~企業価値の向上とは~

 そもそも、企業価値の向上は何で測られるべきだろうか? 売上、利益、顧客満足度、社会貢献、経営者など、その指標についてはいろいろな考え方があるだろう。PEファンドでは、資本市場で用いられている手法を用いて企業価値を測る。なぜならPEファンドの生業として、投資した金額と投資から得た金額の差額でその成否が決定されるからだ。

 資本市場においては、企業価値を向上させる源泉は3点に整理される。これはPEファンドにとってだけでなく、上場会社・非上場会社の経営陣にとっても同様だ。すなわち、①利益成長、②評価倍率上昇、③キャッシュ創出力の組み合わせである。一般的に企業価値を上げる手法としてあげられる、既存事業の成長、新規事業、買収、コスト削減、借入返済などはこの3点のいずれかを向上させるための手段である。

表1 企業価値及び株式価値向上の源泉



 企業価値向上の仕組みを、以下に単純に図式化してみた(図1)。

 利益が20億円の企業があり、その企業は利益の5.0倍で評価されていたとすると、企業価値は100億円になる。仮に、この企業の負債(銀行借入)が40億円存在したとすると、株式投資家への帰属価値(株式価値)はその分を差し引いた60億円になる。

 この企業が3年間の間に成長戦略を徹底的に実行し、利益が30億円になった。この利益は新製品の拡大と海外展開から生み出されており、それによりビジネスの成長性を評価されたため、評価倍率が利益の5.0倍から6.0倍へ向上した。結果、企業価値は180億円となり、1.8倍に向上したことになる。また、キャッシュフローから負債の返済も行ったので、負債は40億円から20億円へ減少し、結果として株式投資家への帰属価値は160億円になった。この企業価値向上の考え方は、PEファンドが企業価値を評価する際のみならず、上場会社が株式市場で評価される際にも共通するものである。

図1 企業価値向上のメカニズム



 ここで、この会社が新製品の拡大と海外展開により利益成長を達成し、時価総額を増やしているところに注目したい。PEファンドとの協業においては、利益成長させるためにコストカットや資産売却に主眼を置くケースもあれば、利益成長させるために売上成長に主眼を置くケースもあるが、いずれも投資リターンを得るための行為であり、その限りにおいては何が正しくて何が間違っているということではない。しかし、後者の「売上の成長を伴う利益成長」が達成されれば、キャッシュフローが潤沢になり負債の返済も進むし、次世代への設備投資や研究開発へまわす資金の余裕も出てくる。またそれは潜在的な成長ポテンシャルが高いということにもつながり、会社の評価倍率が上昇する。まさにいいことづくめで、言うまでもなく事業を担う経営陣、社員にとっては最もやりがいがあることでもある。筆者らが所属するPEファンドでは、これこそが真の意味での企業価値向上と考えられており、「売上の成長を伴う利益成長」を目指すことに注力している。近年、こうしたPEファンドの認知が向上し、多くのオーナーや経営者の共感を得て、協働案件の増加につながっていると思われる。

 しかし、「売上の成長を伴う利益成長」の実現には強いビジネスモデル、正しい戦略、高い執行能力などを必要とするため、その実現は容易ではない。PEファンドが提供する「100日プラン」はその実現のための変革の「導入」であり、そして今回ご紹介するその後のステージでは変革の「実現」を行うものである。この攻めの経営におけるPEファンドの役割について、以下で説明していく。

基礎体力の完成から攻めの経営への転換

 この連載シリーズでは、「経営の見える化」、「組織の再構築」、「人材採用」などについて繰り返し述べてきたが、それらは全て企業としての基礎体力を高めるための取り組みである。走るのが得意だからといって、基礎トレーニングをせずにマラソン大会に出ても結果は伴わない。基礎体力の完成が見えてきたところで、スピードを徐々に上げていく。「より」良い会社への脱皮に向けた取り組みだ。マラソン大会でいうならば、コースを把握して、競争する出場選手を分析して、勝負どころを複数シュミュレーションし、準備し、大会に出場するといった感じだ。

 経営に置き換えると、どういう業界の中でどういう立ち位置の会社か、業界環境はどうか、競争力、企業文化はどのようなものかといった点を、現経営陣や次世代を担うメンバーとひざ詰めで議論を重ね、事業戦略を定めて、中期経営計画を作りこむ。

 このように中期経営計画を策定する会社は案外少なく、例えば単年度予算を3年間延ばしたものを中期計画としているケースなどが散見される。これは責められるべきことではなく、日常業務を推進する責任のある経営陣や従業員は、当然、現在の延長線上に会社の将来像を描く。つまり、個々の製品や事業の成長を積み上げた、ボトムアップでの中期経営計画が作られることになる。

 PEファンドとの中期経営計画の策定では、客観的な視点つまりトップダウンの視点が取り入れられる。会社が永続的に業界をリードしていくためには、同業他社との比較において、誰よりも高い売上成長率、誰よりも高い利益率を達成できることが重要である。すると、ボトムアップとトップダウンで生じるギャップをどのようにして埋めていくのか、という議論になる。そのなかで、業界初の試みであったり、新規事業のアイディアであったり、クロスセル(海外展開)の発想などが出てくる。

 中期経営計画の策定においてPEファンドが提供するのは、トップダウンとボトムアップの考え方の交差、グローバル市場における業界知見・先端事例の提供、常識にとらわれない創造的な発想の尊重などである。会社はそれらを全員で徹底的に議論したうえで、あえてこれまでの修正ではなく白いキャンバスに自社の将来像を描いていく。この際、現経営陣や次世代を担うメンバーがこのプロセスを行うことが重要である。

図2 中期経営計画のフレームワーク



 一方この中期経営計画策定のプロセスを通じて…
 

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カーライル・グループ

■筆者略歴
川原 浩(かわはら・ひろし)
慶應義塾大学経済学部卒。米国公認会計士、中小企業診断士、日本ファミリーアドバイザー協会(FBAA)フェロー。
日本長期信用銀行ならびにJPモルガン・チェース証券に勤務し、東京及びニューヨークにおいて主にストラクチャードファイナンス、M&Aアドバイザリー、株式公開等の投資銀行業務に従事。2001年よりGEエクイティにて、プライベートエクイティ投資、投資先の企業価値増大、投資エグジットを実行。その後GEジャパン事業開発本部においてNBCユニバーサル、GEエナジー、金融事業における提携・買収・事業企画、またGE中央研究所の日本での展開を行う。2006年にカーライル参画後は、主にテクノロジー業界及び電気・電子部品業界への投資を中心に担当し、NHテクノグラス株式会社(現アヴァンストレート株式会社)、株式会社ブロードリーフ、ウイングアーク1st株式会社への投資を主導。これまでに、クオリカプス株式会社、株式会社ブロードリーフ、シンプレクス株式会社、アヴァンストレート株式会社(現任)、ウイングアーク1st株式会社(現任)の非常勤取締役に従事。

小倉 淳平(おぐら・じゅんぺい)
慶應義塾大学総合政策学部卒。
UBSウォーバーグ証券会社(現UBS証券株式会社)の投資銀行本部にて、主に金融機関に対するコーポレートファイナンス業務を担当。在職中、ニューヨークオフィスの金融法人グループに所属し、米銀、資産運用会社向けアドバイザリー業務に従事。2006年にカーライル・グループに参画。
現在、アルヒグループ株式会社及びウォルブロー株式会社非常勤取締役。過去においてシンプレクス株式会社非常勤取締役、チムニー株式会社及び株式会社ツバキ・ナカシマ非常勤監査役。

 

 

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