M&A専門誌マール

2017年05月24日(水)

M&Aスクランブル

パナソニックによるスキーム変更に見る、制度環境変化のM&A実務への影響

 2017年4月21日、昨年12月に公表済みであったパナソニックによる上場子会社パナホームの完全子会社化につき、そのスキームを株式交換から株式公開買付け(TOB)に変更することが発表された。6月開催の定時株主総会で株式交換の承認決議を得る予定であったパナホームにとっては、ぎりぎりのタイミングでのスキーム変更である。

 いったいどういう背景・事情があったのか。公表されたリリースなどを頼りに見てみると、開示規制の新しい流れ、スクイーズアウト関連税制の創設、スチュワードシップ・コードの見直し、スクイーズアウトにおける株式買取価格に関する最高裁の判例といった、M&Aを取り巻く諸制度の変化のM&A実務への影響を感じ取ることができる。本稿では、その影響について簡単に紹介するとともに、今後のトレンドについても考えてみたい。

株式交換によるパナホームの完全子会社化

 昨16年12月20日、パナソニックは17年8月1日付で上場子会社パナホームを株式交換により完全子会社化(いわゆる親子上場解消)すると発表した(注1)。株式交換には総会の特別決議(3分の2以上の賛成)が必要だが、パナソニックの持株比率は54.51%(発表当時)。承認決議はほぼ確実で、株式交換によってパナホームの残り45%強の少数株主はパナソニックの株主となる。交換比率は1:0.80。パナホーム1株につきパナソニック株0.80株が交付される。あくまで公表時の株価による仮の計算に過ぎないが、公表直前日のパナソニック株の終値は1281円であり、パナホームの少数株主はそれに0.8を乗じた1024.8円相当のパナソニック株を受け取ることになる。同日のパナホーム株の終値は855円なので、19.9%(1カ月平均株価で見ると18.0%)相当のプレミアムが付されているという計算になる。

 支配株主による完全子会社化のケースでは、対象会社の支配株主と少数株主の利益が構造的に相反するため、少数株主から取引条件等の公正性を問われ、訴訟となる可能性がある。そのため、両社は取引の公正性を担保するための措置として、独立した第三者機関から株式交換比率算定書を取得し(ただしフェアネスオピニオンは取得していない)、独立した法律事務所からの助言を受けている。また、利益相反回避措置として、パナホームは、独立した特別委員会を設置して、本取引に合理性がある旨の答申書を取得している(リリースでは、特別委員会での検討状況なども開示されているので、参照されたい)。もちろん、パナソニックの役職員を兼務し、利害関係を有する取締役及び監査役は取締役会の議決には参加していない。これらの措置は、近年では、利益相反構造が顕著なMBOや支配株主による完全子会社化(親子上場解消)案件における、ほぼ定着した手続きであり「定石」といっても過言ではないだろう。

海外ヘッジファンドの重要提案行為とパナホームの動き

 17年2月4日付日本経済新聞は、海外ヘッジファンドであるオアシス・マネジメントが株式交換比率の「決定過程に問題があったと指摘、適正な比率に見直さなければ法的手段に訴えると明記した」抗議文書を送っていたことを報じた。2月1日付の大量保有報告書では、オアシスはパナホーム株5.04%を保有し(その後、9%弱まで買い増している)、「ポートフォリオ投資及び重要提案行為」を保有目的とし、「株主価値を守るため、重要提案行為を行うことがある」と表明している。そして、2月22日付で、オアシスは、パナホームによる賛同などを条件に、1株1050円でTOBを行う意図がある旨、通知した。(ただし、そうした通知があった事実は、下記4月21日付のスキーム変更に関するリリースの中で初めて開示された。)ちなみに、通知前日2月21日のパナホーム株の終値は1062円で、オアシスのTOB価格1050円はそれを下回っているが、オアシスの提示したTOB価格の根拠等は明らかにされていない。

 2月28日、パナホームは、株式交換比率に関する意見書(フェアネスオピニオン)の取得およびFAQの開示について、公表した(注2)。株式交換を公表した昨年の時点ではフェアネスオピニオンは取得していなかったが、株式交換比率の公正性をさらに検証するため、当初の第三者算定機関とは別の算定機関を選定し、フェアネスオピニオンを追加で取得したわけである。また、これに合わせてFAQを開示した点もユニークだ。株式交換契約の概要・目的・利益相反回避措置等・交換比率算定の概要を整理したうえで、23の質問に答える形でFAQを公表している。その内容としては交渉プロセスや特別委員会、比率算定の詳細に関するものが多く、このリリースにオアシスの名前は出てこないが、同ファンドとの水面下のやり取りを垣間見せる内容となっている。

 なぜこのような公表が行われたのだろうか。もちろん、少数株主向けに取引条件の公正性を訴え、賛同を得るためのものではあるが、16年12月7日に公表された「金融審議会 市場ワーキング・グループ フェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォース報告~投資家への公平・適時な情報開示の確保のために~」の影響も見逃せない。そこで提示された新しい開示ルール(フェア・ディスクロージャー・ルール)の内容を大雑把にいうと、例えば、特定のアナリストや機関投資家などとの「対話」において重要かつ未公表の情報が提供された場合は、その情報を公表すべしというもの。何を重要と判断するかは難しいところだが、このレポートが示す開示ルール見直しの方向性を斟酌すれば、オアシスとの水面下のやり取りの一部は何らかの形で公表すべきという議論になったのではなかろうか。

 M&Aプロセスの途中で大量買付者が出現したような場合にいかなる開示を行うべきかなど、フェア・ディスクロージャー・ルールのM&Aの開示実務への影響を検討する上で、貴重な事例の1つとなったといえよう。

株式交換からTOBへのスキーム変更

 そして4月21日…

 

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